「おおかみこどもの雨と雪」を観てきた。

 「おおかみこどもの雨と雪」を観てきた。

 冒頭の花が揺らぐシーン、雨に濡れた蜘蛛の巣など、実写にしか見えないような実在感がありながら幻想的な美しい映像。
 子ども独特の怒った時のガナリ声、教室でガヤガヤしているシーンの口調などはすべて実にリアルで生命力がある。
 「バレてはいけない」系にお馴染みのコメディー要素も取り込み、周囲の子どもたちも楽しそうにしていた。

 母親である花の無力さと、そこから強さを身につけていく過程。
 子どもたちが成長し、時にぶつかり合いながら自分たちの生き方を模索する姿。
 そして子どもたちが生き方を見つけてしまったと気づいた、もう子供の頃とは違うと気づいてしまった時、大きな悲しみ、ずっと探していた懐かしい何かに出会えたような気持ち、笑って送り出せる強さ。
 それらすべてが、花に凝縮されていた。
 けれど何処かで「あの人」が花を見ているように、花、雨、雪もどこかお互いを見守り続けている。

 観終わったあと、とても爽やかな気分になれる映画でした。


 
 私は病院の帰りに映画を観ることになっていた。
 実は、私はこのところ眠い。すごく眠い。病院の待ち時間の間はずっと寝ていた。「若い人はそうなんですよ、年とると早く目が覚めます」「先生、まだそんな年じゃないですか」などと医者先生と戯れる。
 一軒目の病院が終われば二軒目をハシゴ。二軒目は窓口で薬を受け取るだけの簡単なお仕事です。

 その後に映画館に寄ったのだけれども、上演時間の都合で映画館と併設されたショッピングモールで一時間ぐらい待たなければならなかった。誰か人を呼んで一緒に見ようかなぁ、とも思ったのだけれど、私には電話一本で飛んでくるような友人はいなかった。

 開場。福井の劇場は満員御礼という程でもないけれど、お客さんはたくさん入っていたと思う(福井基準)。親子連れが多く、子どもは幼稚園児ぐらいの子も多い。「おかあさん、キスシーンとかってあるかな?」「しらねぇよwwww」などと話しているのが面白かった。

 さっきも書いたが私はこのところずっと眠い。
 だから途中で眠ってしまわないか心配だったのだけれど、それは完全に杞憂だった。完全に映画に没頭していた。

 だが実は睡眠の他にも心配事はもうひとつあった。予告編を見る限り以下の問題があるように見えたのだ。
 ①舞台が限定されすぎている
 ②登場人物が少なすぎる。
 ③子育てといっても幼児期が中心
 ④母親の物語への支配力が強くなり過ぎないだろうか
 ⑤つーか田舎ナメてね?
 予告編だけでなく、ポスターの絵のせいもあるかもしれない。

 でもこんな心配も杞憂だった。
 ゆるやかな時の流れの中、「おおかみこども」達の成長、その母親である花の成長を通じ、これらの問題は一つ一つ解決されていく。

 舞台が限定されている?そんなことはない。子どもたちはそれぞれの生きる道を見つける。
 このことは山であったり学校であったりという具体的な舞台を映画の中に登場させる役割もあるのだけれど、それ以上に「これから生きていく世界」のすべての予期させる効果がある。
 「山」「学校」生き方を決意する場所となることによって、これからの生きていく世界すべてを含めたスケール感を詰め込んでいる。この年令のこどもだからできる、そしておおかみこどもという特殊な設定だからこそ出来る魔法かもしれない。
 (田舎ナメてね?ってのも子どもたちがそれぞれの道を見つけていくことで反論できそう)

 登場人物は予告では印象が薄いが、必要十分の人数が必要十分の役割をこなしていた。(草平くんと韮崎のおじいちゃんはもっと予告に出してあげて欲しいと思ったけどw)
 何より、幼児期の「おおかみこども」と少年少女期の「おおかみこども」の性格の変化と、世界における自分の位置の把握の変化が、三人の親子関係に少しずつ影響を与えてゆく。
 この関係性の変化が丁寧に描かれていることが主要登場人物の少なさをカバーしているのだと思う。(これって少女漫画とかだったらベタな技法なのかも?)

 「サマーウォーズ」みたいな映画だと、起承転結で話の流れをカキッ、カキッと変えていく。
 だが本作は話はシンプルでわかりやすいのに、無理に起承転結に分けようとすると「これはなにか違う」という気がした。

 まるで季節の替り目のようだと思った。幾つものことが同時に起こっているのに、昨日と今日は確かに違うのに、どうしても「いつの間にか春になっていた」ような感じ。
 世の母親がこどもの成長に気づく時って、こんな感じなのかもしれない。

 けして「母親」が主役ではない。「花」も「雨」も「雪」も、それぞれ皆自分の人生の主人公だという、事実。それが「母親」の回想として語られる。

 そういう映画だった。






























余談
 雨も雪も花も水分と関係のある名前だけれど、水のイメージが本作の柔らかさ、冷たさ、循環のイメージと合っていてウマいネーミングだと思った。シンプルだから普遍性も高いし。
 これも長く親しまれる作品になるだろうなぁ。

超余談
 パンフレットに載ってたスタイリストの伊賀大介さんの写真がマジイケメン。
 細田監督が「(花と結婚する)おおかみおとこ」のイメージとぴったりなんです!と語ったと言うのも納得。

超余談2
 幼児期の雨可愛い!ヘタレっぷり甘えっぷりもリアル。大きくなるとカッコイイ。ショタコンの人にはたまりません。